平成30年度 第一種 筆記試験 問12 解説 変圧器の鉄損
変圧器の鉄損に関する記述として, 正しい ものは。
- イ. 電源の周波数が変化しても鉄損は一定である。
- ロ. 一次電圧が高くなると鉄損は増加する。 ✓ 正答
- ハ. 鉄損はうず電流損より小さい。
- ニ. 鉄損はヒステリシス損より小さい。
解説
変圧器の鉄損は、その構成要素であるヒステリシス損とうず電流損が一次電圧(厳密には一次電圧によって決まる磁束密度)の増加に伴い増大するため、選択肢ロが正しいと判断できます。
変圧器の損失と鉄損の基礎
変圧器には主に二種類の損失があります。一つは巻線の抵抗によって生じる「銅損」、もう一つが鉄心で発生する「鉄損」です。鉄損は負荷の有無に関わらず発生するため、「無負荷損」や「固定損」とも呼ばれます。
この鉄損は、さらに「ヒステリシス損」と「うず電流損」の二つに分けられます。
ヒステリシス損
鉄心を交流磁化する際に、磁化と脱磁のサイクルでエネルギーが熱として失われる現象です。これは鉄心の材料が持つ磁気ヒステリシス特性によるものです。ヒステリシス損は、電源の周波数に比例し、磁束密度の1.5乗から2乗(経験的に約1.6乗)に比例して増大します。 (は1.5〜2程度の定数、は周波数、は最大磁束密度)
うず電流損
交流磁束によって鉄心内に電磁誘導作用が生じ、渦を巻くような電流(うず電流)が流れることで、鉄心の電気抵抗によって熱が発生する現象です。この損は、電源の周波数の2乗、磁束密度の2乗、そして鉄板の厚さの2乗に比例して増大します。うず電流損を低減するため、変圧器の鉄心は薄い珪素鋼板を積層して作られています。 (は鉄板の厚さ)
電圧と磁束密度の関係
変圧器の一次巻線に加わる電圧 (または誘導起電力 )と、鉄心内の最大磁束密度 の間には、以下の近似的な関係があります。
ここで、 は周波数、 は一次巻線の巻数、 は鉄心の断面積です。 この式から、 は にほぼ比例することがわかります。 つまり、 です。
この関係を踏まえると、各損失は以下のように表せます。
- ヒステリシス損
- うず電流損
各選択肢の検討
上記の知識を踏まえて、各選択肢を詳しく見ていきましょう。
ロ. 一次電圧が高くなると鉄損は増加する。
この記述は正しいです。 一次電圧が高くなると、それに比例して鉄心内の最大磁束密度 が増加します。ヒステリシス損もうず電流損も磁束密度の増加に伴って増大するため、結果として鉄損全体が増加します。特に、うず電流損は磁束密度の2乗に比例するため、電圧上昇による鉄損の増加は顕著です。一般に、鉄損は電圧の約2乗に比例して増加すると言われています。
イ. 電源の周波数が変化しても鉄損は一定である。
この記述は誤りです。 ヒステリシス損もうず電流損も周波数に依存するため、周波数が変化すれば鉄損も変化します。 例えば、電圧 を一定と仮定すると、 です。 このとき、
- となり、周波数が変化するとヒステリシス損は変化し、うず電流損は一定に見えます。しかし、 が2に近い値(例えば1.6)であるため、ヒステリシス損も周波数に依存します。したがって、鉄損全体が周波数変化に対して「一定」であることはありません。
ハ. 鉄損はうず電流損より小さい。
この記述は誤りです。 鉄損は、ヒステリシス損とうず電流損の合計です。したがって、鉄損がうず電流損よりも小さくなることは、ヒステリシス損が負の値を取らない限りありえません。
ニ. 鉄損はヒステリシス損より小さい。
この記述は誤りです。 ハの選択肢と同様に、鉄損はヒステリシス損とうず電流損の合計です。うず電流損が負の値を取らない限り、鉄損がヒステリシス損よりも小さくなることはありません。
変圧器の設計と運用における鉄損の重要性
この問題で問われている鉄損の特性は、変圧器の設計、効率、そして運用において非常に重要な知識です。
- 効率の向上: 鉄損は常に発生するため、変圧器の効率を左右する主要な要因の一つです。損失が少ないほど、より多くの電力を供給先に送ることができ、エネルギーの無駄が少なくなります。
- 発熱の抑制: 鉄損は熱として消費されるため、変圧器の温度上昇の原因となります。過度な温度上昇は絶縁劣化や故障に繋がるため、鉄損を低減することは信頼性の向上にも繋がります。
- 電圧変動への考慮: 電圧が高いほど鉄損が増加するという特性は、送電系統における電圧管理の重要性を示しています。不必要に電圧を上げすぎると、変圧器の損失が増え、効率が低下する可能性があります。
第一種電気工事士の試験では、このような基本的な電気機器の原理と特性を理解しているかどうかが問われます。変圧器は電力系統の非常に重要な要素であるため、その損失特性を正確に把握しておくことは、安全で効率的な電気設備の運用に不可欠です。