平成30年度 第一種 筆記試験 問7 解説 単相3線式の電流
図のような単相3線式配電線路において、 負荷Aは負荷電流10Aで遅れ力率50%、 負荷Bは負荷電流10Aで力率100%で ある。中性線に流れる電流IN[A]は。 ただし、線路インピーダンスは無視する。
- イ. 5
- ロ. 10 ✓ 正答
- ハ. 20
- ニ. 25
解説
この問題は、単相3線式回路における中性線に流れる電流を求めるものです。複数の負荷がある場合の中性線電流は、各負荷電流のベクトル和で計算します。
解き方ガイド
単相3線式回路の中性線電流は、各相線から負荷に流れ込み、中性線に戻る電流のベクトル的な差または和として求められます。この問題では、上側相線と下側相線の電圧が中性線に対して逆相であることを考慮し、それぞれの負荷電流の位相を正確に算出してベクトル合成します。
- 基準電圧の決定: 上側相線と中性線間の電圧を基準電圧 とします。
- 各相の電圧設定: 通常の単相3線式では、下側相線と中性線間の電圧は基準電圧に対して逆相 ( 遅れまたは進み) となるため、 とします。
- 負荷Aの電流 の算出:
- 負荷Aは基準電圧 に接続されています。
- 電流の大きさは 、遅れ力率 です。
- 力率から位相角 を求めます。「遅れ」なので、電圧に対して電流の位相は となります。
- 負荷Bの電流 の算出:
- 負荷Bは逆相電圧 に接続されています。
- 電流の大きさは 、力率 です。
- 力率から位相角 を求めます。電流は接続された電圧と同相です。
- したがって、基準電圧 から見ると、負荷Bの電流は の位相を持ちます。
- 中性線電流 のベクトル合成:
- 図の電流方向に基づくと、中性線に流れ込む電流は負荷Aからの電流 と負荷Bからの電流 のベクトル和です。
- 中性線電流 の大きさの計算:
この結果、中性線に流れる電流は となります。
交流回路のベクトル表記と力率
交流回路では、電流や電圧の大きさだけでなく、位相も考慮する必要があります。これを表現するためにベクトル(複素数)が用いられます。
- ベクトル表記: 交流の電圧や電流は、大きさと基準からの位相角を持つベクトルとして表されます。例えば、 は、大きさが で、基準(通常は電圧)より位相が 遅れている電流を示します。複素数平面上では実部と虚部に分解して表現することも可能です(例: )。
- 力率: 力率 () は、電流と電圧の位相差 の余弦で定義されます。これは、交流電力のうち有効に利用される電力の割合を示す指標です。
- 力率 : 電圧と電流が同相 () であることを意味し、抵抗性負荷で生じます。
- 遅れ力率: 電流の位相が電圧の位相より遅れていることを意味します。誘導性負荷(モーターやコイルなど)で生じ、位相角 は正の値で表されますが、電流ベクトルとしては基準電圧に対して となります。問題の「遅れ力率 」は、、つまり の遅れを意味します。
単相3線式回路の中性線電流の意義
単相3線式配電は、日本の一般家庭や小規模店舗で広く使われている配電方式です。これは2本の相線(L1, L2)と1本の中性線(N)から成り立っています。L1-N間、L2-N間にそれぞれ の電圧が供給され、L1-L2間には が供給されるのが一般的です。
この回路において、各負荷が中性線に接続されている場合、中性線は各負荷電流の共通の帰路となります。もし各相線と中性線間の負荷が完全にバランスしていれば、中性線に流れる電流は になります。しかし、実際には負荷は常に変動し、バランスが崩れることがほとんどです。
中性線に流れる電流は、不平衡電流と呼ばれ、各相から中性線に流れ込む電流のベクトル和として求められます。この電流が大きくなりすぎると、中性線が過熱したり、電圧降下によって他の負荷の動作に影響を与えたりする可能性があります。そのため、電気工事士は中性線電流の計算を通じて、回路の健全性を評価し、適切な配線設計を行う必要があります。
この問題の教育的な意図は、単相3線式回路という実用的な場面における交流回路の基本的な計算能力、特にベクトルを用いた電流合成の理解度を測ることにあります。力率の概念を正しく理解し、電圧の位相関係を考慮して電流をベクトル合成できるかが合格の鍵となります。